毎月の給与明細、きちんと見ていますか。
見ているとしたら、どの項目でしょうか。たいていの人がまず目をやるのは「差引支給額」、つまり手取りの数字だと思います。
じむにーと正直、手取りの金額しか見ていませんでした。
でも、手取りが少ない理由は、そこには書かれていません。答えは全部、その手前にある「控除」欄にあります。
給料は上がったはずなのに口座に入る金額が変わらない、というときも同じです。差は必ず控除欄で説明がつきます。ただ、行の名前だけ見ても何のお金なのかは分かりません。
この記事では、控除欄の行を1つずつ、何のために引かれ、代わりに何を受け取れるのかという順で読み解きます。月給30万円のケースで実際に計算もします。
制度の数字は2026年9月時点で確認したものです。健康保険と厚生年金に入っている会社員(協会けんぽを例にします)を想定しています。
結論:控除欄の行は2種類に分かれる
先に答えを書きます。額面と手取りの差は、社会保険料と税金の2つでほぼ説明がつきます。そしてこの2つは、性質がまったく違います。
| 何のお金か | 見返り | |
|---|---|---|
| 社会保険料(5行) | 病気・介護・老後・障害・失業に備える保険の代金 | あり。払った人が給付を受け取る |
| 税金(2行) | 所得税・住民税 | 直接の見返りはない |
つまり控除欄の大部分は、取られているお金ではなく、保障を買っている代金です。ここを分けて読めるようになると、明細の見え方が変わります。
そもそも給与明細は2か所しか見なくていい
明細には細かい行が並んでいますが、金額の話で見るべきは2か所だけです。支給欄の合計が総支給額(いわゆる額面)で、控除欄の合計が引かれる額。その差が手取り(差引支給額)になります。額面と手取りの差は、100%控除欄に書かれています。
控除欄には、法律で決まっているもの(社会保険料と税金)のほかに、企業年金の掛金や組合費といった、会社との取り決めで引かれる行が混ざることがあります。まずは法律で引かれる行だけを拾ってください。
社会保険料の5行は、それぞれ何に備えているか
社会保険料は、いつか起きるかもしれない出来事に備える保険料です。民間の保険と大きく違う点が1つあります。多くの行を会社と折半していることです。明細に書かれている金額と同じくらいの額を、会社もあなたのために払っています。
健康保険料 ― 病気やケガに備える
いちばん身近な見返りは、病院の窓口負担です。70歳未満なら、かかった医療費の3割を払えば済みます。残りはこの保険料でまかなわれています。
さらに、医療費が高額になったときに自己負担を抑える高額療養費、病気やケガで働けない間の生活を支える傷病手当金も、ここから出ます。
料率は加入先や都道府県で異なり、協会けんぽの2026年度の平均は9.9%。会社と折半なので、本人の負担はおよそ半分です。
介護保険料 ― 介護に備える
40歳から64歳までの人が負担します。会社と折半です。
じむにーと40歳の誕生月に手取りが減って、びっくりする人が毎年います。
39歳までの明細にこの行はありません。逆に言えば、40歳になった月から手取りが減ります。給料が上がっていないのに手取りが減ったら、まずこの行を疑ってください。
子ども・子育て支援金 ― 子育て支援の財源
2026年4月分から始まった新しい行です。会社員の率は0.23%で、基本的に半分を会社が負担します。
医療保険の仕組みを通じて集められるため、健康保険料と同じ行にまとめられていたり、別行になっていたりと、表示は会社によって違います。
厚生年金保険料 ― 老後と「万一」に備える
控除欄でいちばん金額が大きくなりやすい行です。料率は18.3%、会社と半分ずつなので本人負担は9.15%。
ここで誤解されやすいのですが、厚生年金は老後のためだけのお金ではありません。公的年金は、国民年金(基礎年金)の上に厚生年金が乗る2階建てになっていて、この2階部分からは、障害を負ったときの障害厚生年金、亡くなったときに遺族が受け取る遺族厚生年金も出ます。老後の積み立てというより、老後と万一の両方に備える保険と考えたほうが実態に近いです。
雇用保険料 ― 失業だけでなく、育児や学び直しにも
本人負担は0.5%。ほかの行に比べると小さな金額です。
代表的な見返りは、仕事を失ったときの基本手当(いわゆる失業給付)。それに加えて、育児休業中の育児休業給付、国が指定する講座を修了したときの教育訓練給付もあります。働いている間に使える給付も含まれているという点は、意外と知られていません。
月給30万円で実際に計算してみる
数字を入れてみます。月給30万円・40歳未満・協会けんぽ(平均料率)のケースです。
| 控除の行 | 料率 | 本人負担 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 健康保険料 | 9.9% | 折半 | 30万 × 9.9% ÷ 2 | 14,850円 |
| 介護保険料 | ― | ― | 40歳未満なのでなし | 0円 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 折半 | 30万 × 0.23% ÷ 2 | 345円 |
| 厚生年金保険料 | 18.3% | 折半 | 30万 × 18.3% ÷ 2 | 27,450円 |
| 雇用保険料 | 0.5% | 本人 | 30万 × 0.5% | 1,500円 |
| 社会保険料 合計 | 44,145円 |
額面30万円のうち、約4万4千円が保障の代金です。ここからさらに所得税と住民税が引かれるので、手取りはおおむね24万円前後になります(税額は扶養家族の有無などで変わるため、正確な額はご自身の明細で確認してください)。
自分の年収だと社会保険料がいくらになるかは、社会保険料はいくら引かれる?の早見表で、40歳未満と40歳以上に分けて出しています。
そして見落としやすいのが、会社もほぼ同額を払っているという点です。
| 本人 | 会社 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 折半している行の合計 | 42,645円 | 42,645円 | 85,290円 |
じむにーと自分が払っている額の倍が、実際の保障のコストです。
あなたの保障には、月8万5千円ほどのコストがかかっている。そのうち半分を会社が負担している、という構図です。求人票の「月給30万円」の裏側では、会社はこれに社会保険料の会社負担分を上乗せした額を払っています。
税金の2行は、引かれるタイミングが違う
所得税と住民税は、社会保険料と違って「払った人が給付を受け取る」仕組みではありません。この2行の特徴は、引かれるタイミングにあります。
所得税は、今年の収入の見込みにもとづいて毎月仮に引かれています。1年分の税額が確定するのは年末で、毎月引いた合計とのズレを精算するのが年末調整です。
住民税は、前年の所得をもとに計算され、6月から翌年5月までの12回に分けて引かれます。つまり、いま明細に載っている住民税は、去年のあなたの所得に対する金額です。
この1年のズレは、転職・退職・収入が下がった年に効いてきます。収入が減ったのに住民税だけ高いまま、ということが起こります。
自分の年収だと住民税が月いくらになるかは、年収200万の住民税はいくら?の早見表で、年収150万〜300万円の目安を出しています。
見落としやすい3つのこと
1. 保険料は「今月の給料」では決まらない
社会保険料は、毎月の給料に直接料率を掛けているわけではありません。標準報酬月額という、給与を等級に区切った金額をもとに決まります。
この等級は、原則として4月・5月・6月の給与の平均で決まり、その年の9月から1年間使われます。つまり、4〜6月に残業が多かった人は、その後1年間の社会保険料が高くなります。残業代が減っても、保険料はすぐには下がりません。
じむにーと4〜6月に残業を詰め込むと、その後1年ずっと保険料が高いままになります。
2. 「引かれ損」ではない
じむにーと毎月引かれる額ばかり見ていると、見返りがあることを忘れがちです。
控除額の大きさばかりが目につきますが、社会保険料の見返りは、必要になったときにまとめて返ってきます。
医療費が100万円かかっても窓口負担は3割で、さらに高額療養費で上限が下がる。病気で3ヶ月働けなくても傷病手当金が出る。これらは保険料を払っているから受けられるものです。民間の医療保険を検討する前に、まず公的保障でいくらカバーされるかを知るべきなのは、このためです。
3. 40歳と、転職の翌年に手取りが動く
40歳になった月から介護保険料の行が増えます。転職・退職の翌年は、住民税が前年の所得ベースで請求されます。
どちらも「給料が変わっていないのに手取りが変わる」典型パターンです。
今日やること:明細を2つに分けて合計する
手元の給与明細を1枚出して、次の順に見てみてください。3分で終わります。
- 控除欄から、法律で引かれる行だけを選ぶ(企業年金の掛金や組合費、「社会保険計」のような小計行は外す)
- 社会保険料(健康保険・介護保険・子ども・子育て支援金・厚生年金・雇用保険)と税金(所得税・住民税)に分けて、それぞれ合計する
- 額面と手取りの差のうち、保障の代金がいくらで、税金がいくらかを見比べる
額面と手取りの差は、保障を買っている代金(社会保険料)と、税金の2つに分かれます。どちらがいくらかを一度でも数えておくと、保険を検討するときの出発点になります。
行ごとに「これは何に備えるお金か」を横に書き込んでみると、控除欄の見え方が変わります。
まとめ
- 手取りは額面から控除を引いた残りで、その差は100%控除欄に書かれている
- 控除欄の中心は、社会保険料(見返りあり)と税金(直接の見返りなし)の2つ
- 社会保険料は病気・介護・老後・障害・失業に備える保障の代金で、多くを会社と折半している
- 月給30万円・40歳未満なら、社会保険料は月およそ44,145円。会社も同程度を負担している(2026年9月時点)
- 所得税は今年の見込みで仮に引いて年末調整で精算、住民税は前年の所得をもとに6月から引かれる
- 保険料は標準報酬月額で決まるため、4〜6月の残業がその後1年に効く
ここに書いたのは一般的な仕組みの話です。実際の保険料や税額、受けられる給付は人によって変わります。個別のケースは、加入している健康保険、年金事務所、国税庁やお住まいの市区町村、税理士にご確認ください。
次に読む
この記事で分かったのは「いくら払っているか」です。次は「払った分、何がもらえるか」を見てください。
- 公的保障はいくらもらえる?働けないとき月20万円と、足りない9.5万円 病気で働けなくなったとき、障害が残ったとき、亡くなったとき。それぞれいくら出るのかを金額で出しています
- 所得税と住民税の違い|2年目の6月に手取りが減る理由 この記事で触れた「住民税は前年の所得にかかる」を、退職・転職の場面まで掘り下げています
- お金の基礎まとめ|投資を始める前に知っておく7つのこと この記事を含む7本を、読む順番に並べています
じむにーとこの2本を読むと、民間の保険に入るべきかどうかを自分で判断できるようになります。
参考(一次ソース)
すべて2026年9月18日に確認しました。
- 全国健康保険協会「令和8年度保険料率のお知らせ」(平均保険料率9.9%) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/lp/2026hokenryou/
- 全国健康保険協会「療養の給付」(窓口負担3割) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/mynumber_insurance_card/index.html
- 全国健康保険協会「給付と手続き」(高額療養費・傷病手当金) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/
- 全国健康保険協会「協会けんぽの介護保険料率について」(40〜64歳) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/about/business/insurance_rate/002/index.html
- 全国健康保険協会「協会けんぽの子ども・子育て支援金率について」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/about/business/insurance_rate/003/index.html
- こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」 https://www.cfa.go.jp/policies/kodomokosodateshienkinseido
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-01.html
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」 https://www.nenkin.go.jp/service/seidozenpan/20140710.html
- 厚生労働省「令和8(2026)年度雇用保険料率のご案内」 https://www.mhlw.go.jp/content/001692566.pdf
- 厚生労働省「雇用保険制度」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/index_00003.html
- 国税庁「No.2662 年末調整のしかた」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2662.htm
- 総務省「個人住民税の現年課税化について」(前年所得課税の仕組み) https://www.soumu.go.jp/main_content/000650020.pdf
